■わたしたちがめざす組織罰の内容
1 両罰規定の特別法として「個人にしか問えない業務上過失致死罪を法人にも問えるようにする法律」を創設する。
2 事故防止対策の重大な不備が、代表者の意思や黙認による場合には、代表者も処罰できるようにする。
3 条文の内容は以下のとおりとする。
第1条 法人の業務において発生した事故に関して、代表者又は代理人,使用人その他の従業者が刑法211条の罪を犯し、人を死亡させたときは、法人を500万円以下の罰金刑に処する。
第2条 前条の罰金は、国及び地方公共団体を除き、当該会社の前事業年度における純資産額に相当する金額以下とすることができる。
第3条 第1項の場合において、法人の代表者が、発生した事故の防止に必要な措置を講じなかった場合においては、事業主を、500万円以下の罰金刑に処する。
第4条 前項の罰金は、代表者の前年度の所得の3倍に相当する金額以下とすることができる。
3 説明
(1) 重大事故の責任を問うものであるため、人の死亡の結果が生じた事故を対象とする。
(2) 「法人」には、国や地方公共団体も含む。法人格のない団体は対象外とする。
(3) 「法人の業務において発生した事故」を対象とする。
その組織における安全確保のためのコンプライアンス対応が社会通念に照らして事故を防止する十分なものであったにもかかわらず、予測困難な逸脱行為によって事故が発生した場合には、その組織を免責することが相当と考えられる。
そこで、そのような行為による事故は、「法人の業務において」発生した事故とは認められないとして、処罰の対象から除外する。
(4) 安全確保のためのコンプライアンスが十分であったことの立証責任は、組織側に課すこととする。組織側に積極的な立証が促されることにより、安全確保に向けた平素からの努力が促進されると共に、真相解明にもつながっていくことが期待される。
(5) 罰金額は、会社等の一般的な法人の場合と、地方自治体等の公法人の場合とで上限に差異を設ける。一般の法人についてはその純資産額を上限とし、資力に応じた処罰を行えるようにする。
これに対し、地方自治体等の公法人の場合には、罰金は最終的に納税者の負担となるので、法人重課の対象とはしない(上限500万円)。ただし、法人が処罰されることで、法人内部において適切な責任追及が行われることを予定する。
(6) 両罰規定が適用される場合に、代表者に対しても罰金刑を科することができるものとする。
代表者に対する法定刑は、原則として500万円を上限とするが、代表者が高額の報酬を得る一方、事故防止対策を怠ったことが事故の発生につながることもあり得るので、代表者の前年度の所得額の3倍までの罰金を選択できるようにする。
4 組織に求めるのは刑事責任であり、当然、これとは別に民事責任や社会責任を果たしていく必要がある。
5 目指す両罰規定は、既存の規定と同様に、代表者や従業員に個人過失があった場合に、組織の責任を問う。
また、従来通りの具体的予見可能性などの判断による。
■わたしたちが見直しを求める刑事司法の実務
1 過失犯について、具体的予見可能性に固執せず、常識を重んじて、合理的危険が予見できれば処罰できるよう、判断のあり方を改めること。
2 予見可能性を考えるにあたり科学的な考察を重視すること。
3 刑事訴訟法の手続きのあり方は、被害者も納得できるように改めること。
4 捜査にあたっては、事故調査活動の重要性を尊重し、相互に独立性を重んじ協力できる関係性を構築すること。
5 将来的には、法人処罰については、英国の法人故殺罪など新たな仕組みに発展するよう研究と検討を進めること。